映画「ホノカアボーイ」のロケ地を訪ねる旅
古きよき日系人の町ホノカア
~映画そのままの小さな町を散策、ローカルフードを味わう旅~
ハワイ島(ビッグ・アイランド)の小さな町ホノカアは、今年3月に映画「ホノカアボーイ」が公開されたことで日本でも広く知られるようになった。5月下旬に実施されたFAMツアーでも、ハワイ島を半周する行程のなかでホノカアを訪れた。ヒロを出て海沿いの19号線をバスで走り、240号線にそれた少し先にホノカアはある。わずか数百メートルのメインストリートは、うっかりすると見過ごしてしまいそうだ。町は映画で見たままで、それ以上でもそれ以下でもないところが期待通り。ひなびた通りを散策するだけでレトロな雰囲気満点だが、映画を見てから訪れるとより楽しめるのは確かだ。
舞台となった町がそのままに
映画の原作『ホノカアボーイ』は、著者の吉田玲雄氏がホノカアで過ごした時間を綴ったもの。吉田玲雄氏は吉田カバンの創設者、吉田吉蔵氏のお孫さん。米国で映画や写真を勉強し、ライターや写真家として活躍しながら、現在は鞄デザイナーの父である吉田克幸氏と「ポータークラシック」を運営している。『ホノカアボーイ』は2006年3月に発行後、映画化の運びとなって昨年10月に1ヶ月以上をかけて撮影、今年3月14日に封切られた。
ホノカア・ピープルズ・シアターで映像技師のバイトをする主人公レオ(岡田将生)と日系人のビーさん(倍賞千恵子)とのほほえましい日常を描いた作品は、心の中にすっと入ってやわらかな印象を残す。オールハワイ島ロケが登場人物やストーリーを際立たせている。予備知識なしに訪れると、ホノカアは何の変哲もない町だが、映画を知った上で来ると、シアターには主人のバズ(Chez Mann)やエデリ(松坂慶子)がいそうだし、ストリートにはシアターで売るマサラダ用の大きな小麦粉の袋を抱えたレオが歩いていそうだ。
ホノカアを訪れた日、ピープルズ・シアターは休みだったが、中に入れてもらうことができた。映画でマラサダを売っていたカウンターもポップコーンの機械もそのままそこにある。劇場の中もまるでアンティークな映画セットのようで、古き良き時代のにおいがした。映画のロケ地としては、今回はこのピープルズ・シアターとビーさんが顔を出していたアパートの窓くらいしか見ることはできなかったが、ビーさんの家や向かいのレオが住んでいた家を見ることもできるし、みずえ(正司照江)のバーバーショップも現存する。
また、ホノカアからワイピオ渓谷までは車で5分から10分。観光客が立ち寄れる展望台から渓谷と海の風景を眺めただけだが、ここでも思わずマライア(長谷川潤)がフラを踊っていたシーンが思い浮かぶ。この映画にはフラが1シーンだけ出てくる。それは一般にイメージされるカラフルで明るいフラではなく、黒の衣装を身にまとったマライアが人の死を悼むシーンで登場する。その舞台となったのがワイピオ渓谷。あの印象的なシーンは、緑の絨毯が風にそよぐこの渓谷のどこかにあるのだ。
ハワイ名物の揚げドーナツ、マラサダ
映画でも重要な小道具として登場したマラサダは、メインストリートを少し外れたテックス・ドライブインの名物。ここは地元の人々が愛用するカフェでもあり、食事の美味しさでも定評があるところ。訪れたときにはランチタイムをとうに過ぎていたが、多くの人で賑わっていた。
もちろん真っ先にマラサダを食べてみる。何も入っていないプレーンが96セント、プラス35セントでチョコレートクリームやカスタードクリーム入りを選ぶことができる。揚げたてのマラサダは、思っていたより大きくてやわらかい。口のまわりが砂糖だらけになったが、想像以上に美味しくて、これならあと2個くらいは食べられそう。個人的にはクリーム入りは邪道な気がした。生地と砂糖の絶妙な按配を、アツアツ状態で味わうのがベストではないだろうか。
また、マラサダは製造工程を見学できるようになっており、そのガラス戸に日本語で「日本での販売業務委託先および投資家募集について」という案内が貼ってあった。コナコーヒーと一緒の展開案が示されており、日本で流行らせることができたら、絶好のハワイのプロモーションになることだろう。
その昔、マカデミアナッツの栽培で栄えたホノカアは、今やひっそりとノスタルジーを漂わすローカルタウンとなっている。古き良きハワイをリアルに感じることができる場所として、ひっそり訪れたい場所だ。大型バスを利用する団体の場合は難しいが、バン程度の10名弱のグループやレンタカー利用者であれば問題なし。テックス・ドライブインであれば大型バスも駐車可能だ。
映画の空気感をツアーに
映画「ホノカアボーイ」は日本航空(JL)が撮影に協力したこともあり、ジャルパックが映画のロケ地巡りツアーを商品化した。「ホノカアボーイ ハワイ島 舞台をめぐる旅」と題し、ハワイ島5日間とハワイ島&ワイキキ6日間を3月から6月に設定。舞台となったホノカアやホノムの町を訪れるのはもちろん、ホノカアで唯一のホテル「ホテル・ホノカア・クラブ」に1泊し、ピープルズ・シアターで「ホノカアボーイ」を特別上映。さらに、映画の中でも重要な役割を果たす食に対してもこだわり、映画をイメージさせるローカルディナーまで用意した。まさに「ディープ過ぎず、映画の空気感を感じることができる内容」(同社ハワイ・アメリカ部ハワイグループ若林崇浩氏)となっている。
ツアーは参加者の7割が女性で、年齢層は10代から70代と幅広く、女性の1人参加も目立ったという。設定期間が新型インフルエンザ流行の真っ只中だったという影響もあり、目標人数には達しなかったが、参加者にとって満足度の高い商品となった。地元の人々との触れあいやストーリーと連動したガイドの説明、マラサダやロコモコといったローカルフードへのこだわりなど、随所に映画の空気感を感じることができ、感激した参加者から企画者宛にお礼のレターが届いたほどだ。同社では、ハワイ島北部を取り扱うツアーが少ないことから、このツアーを機に、今後はハヴィやワイピオなど北部のオプショナルツアー化を検討していきたいとしている。
ハワイ州は「レインボウ・ステイト」といわれるだけあって、何かと虹に縁のあるところ。どの島にいても、スコールの後に虹を見ることができる確率は高く、また車のナンバープレートに虹が描かれているのも有名な話だ。ハワイ島でいえばノースヒロに位置するレインボーフォールズが虹の名所。雨が多く、水量が豊かな高さ25メートルの滝にかかる虹は迫力満点だ。
では、レインボウならぬムーンボウ(月の虹)をご存知だろうか。月の光によってできる虹のことで、別名「ナイト・レインボウ」もしくは「ルナ・レインボウ」。色彩が淡いことから白虹(はっこう)ともいわれている。ハワイ島やマウイ島などハワイの各島で観察されており、見た者には幸せが訪れるというが、遭遇の確率は極めて低い。条件は、満月前後の雨上がり。月の出ている方向と反対側に出ることを覚えておきたい。
「ホノカアボーイ」でも、このムーンボウはレオとビーさんの交流にひと役かっている。2人はムーンボウを見ることができたのかどうか、映画で確認してほしい。
ワイピオ渓谷(ハワイ島)
ヒロ(ハワイ島)
コナコーヒー(ハワイ島)
マカデミアナッツ(ハワイ島)