障害者向けビーチプログラム
ハワイ唯一の障害者向けビーチプログラム
~大勢のボランティアに支えられて、海で笑顔になる~
障害を持った人もビーチでアクティビティ体験を――。そんな思いからうまれたのが、アクセスサーフによる障害者向けのビーチプログラム「ア・デイ・アット・ザ・ビーチ」。アクセスサーフはレクリエーションセラピストのマーク・マーブル氏が4年前に立ち上げた非営利団体で、ビーチプログラムは毎月1回開催される。バリアフリーが進むハワイでも、ビーチに特化したプログラムとしては唯一のもので、毎回多数の参加者とその家族で賑わう。今後はワイキキにも同様のプログラムを展開する計画も進行中とのこと。今回はオアフ島西部にあるカラエロア・ビーチで実施されているプログラムの様子をレポートする。
波の穏やかなビーチでサーフィン体験を
ワイキキから西へ40分ほど。カポレイ地区から海岸に向かって走ると、バーバーズポイントにあるカラエロア・ビーチにたどり着く。ここはホワイト・プレインズ・ビーチというアメリカ海軍の基地でもあった場所だ。今は一般に公開されており、比較的波が穏やかなため、サーフィン初心者には絶好のサーフスポットとなっている。この日も地元のサーファーたちが朝早くから駐車場をいっぱいにしていた。ここで毎月1回、第1土曜日の朝9時から午後1時まで、障害者向けのビーチプログラム「ア・デイ・アット・ザ・ビーチ」が開催される。朝9時にビーチに着いてびっくり。予想以上に多くのボランティアが集まっていたからだ。
参加者はブースで受付を済ませ、サーフィンかビーチで泳ぐかの選択をする。子どもは大半がサーフィンを選んでいるようで、受付の後、ライフジャケットを着用して、自分の番が来るのを待つ。ビーチに入れるのは最大8組まで。約20分で交代となり、次の8組が海に入るという具合だ。やはり安全第一を考えると、 8組が一度に海に入れる限度なのだろう。
海に入るときは、1人の子どもに2、3名のボランティアがつく。サーフィンはロングボードに子どもを乗せて出発だ。サーファーのボランティアがボードに一緒に乗り、子供と波乗りを楽しむ。耳が聞こえなくても、話ができなくても、海の潮の香り、海の水の感覚、まぶしい太陽の光、そして砂の感覚や、感動が忘れられないのだろう。海のなかでボランティアに心を許して笑顔を見せるわが子のために、毎回参加する家族も多い。
毎回多彩な顔触れがそろうボランティア・スタッフ
プログラム参加者のなかには、脳性麻痺の子どもとその両親をはじめ、自閉症の弟にサーフィンを体験させるためにやってきた女性など、ハワイ在住の日本人家族の姿もあった。やはり最初は泣いてしまう子どももいるようだが、少しずつ時間をかけて笑顔が出てくる時、それは何事にもかえがたい体験になるようだ。
車いすが必要な成人男性の場合、体重が重いため、家族が付き添っていても特別な乗り物がないとビーチに移動するのは困難だ。ここでは、海にそのまま入ることのできるフロート付き車いすや、 砂の上でも押すことのできる車いす、専用のマットなどがあり、それがとても役に立っていた。それでも移動には、参加者1人に対してボランティアが3、4名がかりとなる。
ボランティアのなかには、ライフガードの経験者、サーファーやセラピストなどもいる。これらの経験のないボランティアも多いが、テントの設営や受付などできることはたくさんあるという。活動の手伝いをしていたボランティアの顔触れも実に多彩だった。海軍に所属するケファイア氏は、実はカメルーン出身。他のボランティア活動にも積極的な青年だ。また短期大学教授のウィリアム氏は、サーファーでもある。「大好きな海と大好きなサーフィンのために、何か地域に恩返しをしたいという気持ちで参加している」という。日本人のボランティアに話を聞くと、「“不可能”で終わるのではなく、“この状況は難しい、でも何かできるはず”という出発点に立って行動している団体」と、アクセスサーフについて語ってくれた。
プログラムの参加者は地元在住者がほとんどだが、ボランティアとして活動に参加する日本人や、障害者を持つ家族が日本からやってきて参加するケースも、件数は少ないながらあるという。参加者は毎回50から90家族ほど。ボランティアの笑顔がとてもまぶしく、印象的だった。
将来はワイキキにプログラムを拡大する計画も
アクセスサーフを立ち上げたマーク・マーブル氏は、8年前にレクリエーションセラピストとしてフロリダからハワイにやってきた。レクリエーションセラピーとは、レクリエーションを通して体の回復や精神安定をはかるだけでなく、病気の治療やリハビリにも使われる療法だ。当初、マーブル氏はハワイの病院でこれから社会復帰していく患者のためにセラピストとして働いていたが、海に囲まれ、ビーチがこれだけ身近なハワイで、障害者がビーチで楽しむことを手伝う団体がなかったことに驚いたという。以前フロリダでこの仕事をしていた時には、スキューバダイビング、セールボート、スキーなど障害者がやってみたいという場合に、それを支援する団体があったのだそうだ。
マーブル氏は患者であるハワイの障害者の、「家族に迷惑をかけてはいけないから、ビーチには行かない。ビーチは無理だろう」という声を何度となく聞き、この団体を設立するに至った。設立して3年になる現在、ボランティアの登録者数だけでも 400名にのぼるという。アクセスサーフのスタッフは、マーブル氏を除いてすべてボランティアだ。運営は個人あるいは企業の寄付によって成り立っており、クレイジーシャツ、デューク・カハナモク財団、サーフニュースネットワークなどハワイの企業や団体の支援を受けている。ただ、昨今の不況の影響もあり、運営強化をはかるためにも活動の場を広げていく考えだ。現在、ワイキキにあるホテルとパートナーシップを結び、今後はワイキキ周辺のビーチでも同様のプログラムが実施できるよう働きかけているとのこと。これが実現すれば、障害を持つ家族がいる旅行者にとっても朗報となるに違いない。
アクセスサーフでは、無料で参加できる「ア・デイ・アット・ザ・ビーチ」とは別に、リクエストがあれば個人ベースのプログラム(2時間、150米ドル)も実施するほか、毎月第3水曜日には「ウーンデッド・ウォーリヤー」という、軍隊で負傷した人や戦争によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を持つ人を対象に、同じようなプログラムを展開している。
ワイキキ(オアフ島)