島時間に触れるモロカイ島への旅
島時間に触れるモロカイ島への旅
~小さな島ならではのローカルライフを楽しむ~
ハワイ・リピーターを中心に、マウイ島、ハワイ島、カウアイ島などの隣島に足を伸ばす旅行者が増えるなか、まだ知られざる存在ともいえるのがモロカイ島だ。モロカイ島はマウイ島を中心としたマウイ郡の4つの島のひとつで、小さな島だが魅力は大きい。東西に横長なこの島は、北側は海に面して切り立った断崖となっており、南側は沖合に連なる海底の岩礁に守られて、透明度が高い鏡のような海が広がっている。自然の豊かさがぎっしりつまったモロカイ島は、小さな島ならではの距離感が旅の醍醐味をもたらしてくれる。休暇はハワイで過ごすのが定番のリピーターはもちろん、いつも新鮮な体験を求める旅好きの人、ちょっと個性的な家族旅行を安全に楽しみたい人々にもおすすめだ。
海からの景色を楽しみながらフェリーで移動
ハワイ州内の島々を移動する主な手段は飛行機だ。モロカイ島へのアクセスも、各島を結ぶハワイアン航空(HA)、直行便が便利なアイランド・エアー(WP)がある。しかし、モロカイ島への旅に、飛行機では得られない楽しみをもたらしてくれるのが、マウイ島ラハイナとモロカイ島カウナカカイを結ぶモロカイ・フェリー。マウイ島滞在と組みあわせてモロカイ島に足を延ばすなら、ぜひおすすめしたいルートだ。
フェリー乗船中は、マウイ島、ラナイ島を海から眺めるよいチャンスだ。マウイ島の西側、ウエスト・マウンテンと呼ばれるマウナ・カハラヴァイ、古都ラハイナの美しい佇まい、そして、ラナイ島を横目に、モロカイ島の南側を東西に行く航路は、島々を普段見ることのない視点で眺める、またとない機会を与えてくれる。
また、季節によってはクジラが見れるほか、モロカイ島に近づくにつれて透明度を増す海ではイルカの群れに出会うチャンスもある。マウイ島とモロカイ島の間の海は潮の流れが速く、「モロカイ・ホエ」という難易度の高いカヌー・レースが開催されるほどだが、朝便のフェリーで渡る海はそれを微塵も感じさせない穏やかさだ。
もうひとつ、フェリーをすすめる理由は利便性にある。フェリーはマウイ島のラハイナ・フロント・ストリート沿いの宿パイオニア・インの目の前の港と、モロカイ島の中心地カウナカカイの港を朝夕に行き来するのだが、このフェリーの発着地点は、各島の空港よりも圧倒的にアクセスがいいのだ。乗船時間は1時間30分で飛行時間よりも長いとはいえ、空港を使用したときの移動の手間を考えると、フェリーでの移動は便利。そして費用面でも、フェリーの場合は片道大人40米ドル、子ども20米ドル(燃料サーチャージと税金は別途)とお手頃なのも魅力だ。賢く旅を楽しみたい人々や、ゆったりと時間を楽しみたいリピーターや家族連れにぴったりの移動手段である。
シンプルなホテルでのんびりした滞在を
一度滞在したら忘れることができないホテル。ホテル・モロカイは間違いなく、そのひとつである。現代的な生活とは明らかに違う、モロカイ島ならではの「島時間」が流れる場所だからだ。ホテルはフェリーの発着するカウナカカイの町から車で10分ほどのカミロロア・ビーチ沿いにある。コテージ・スタイルの建物が並ぶ様子は、まるで昔のハワイの村を思わせる。
モロカイ島の南側の海は全米最大級の岩礁地帯となっている。そのため、島の南側はほとんど波がない。ハワイのホテルのなかでも、これほど建物が波の打ち寄せる間際にあるところはないだろう。ホテルは東西に長い島の中間地点に位置するため、島全体を周遊するのにとても便利なロケーションだ。ここを基点に東西南北で異なった表情をもつ島の自然を存分に味わいたい。
こぢんまりとしたフロント・デスクには心からの笑顔、敷地内を歩けば温かいもてなしに触れることができる。コテージ・スタイルの客室はホテルの庭からの出入りが自由で、海からの風や音が抜けていく。室内はシンプルにまとめられ、小さなキッチンのある部屋が多いせいか、家族連れや長期滞在者の利用が多いようだ。波打ち際の近くにたたずむレストラン&バーには、ホテルのゲストだけではなく地元の人々も集まり、和やかな雰囲気があふれている。
毎晩異なった顔ぶれのハワイアン・ミュージシャンが生演奏をするのも大きな魅力だ。ハワイのエンターテイメント業界にはモロカイ島出身のミュージシャンやシンガーが多く、その多才さが知られている。そんなモロカイ島で、ホテルで気軽に地元ミュージシャンの生演奏を楽しめるのは、贅沢の一言に尽きる。「こんなところに住めたら素敵」と思わせるアットホームなホテルでの滞在は、モロカイ島の旅のハイライトのひとつになることは間違いない。
モロカイ島の中心、カウナカカイの町を歩く
東西に長いモロカイ島を2つに折りたたんだ折り目のあたり、つまり島の中心となるカウナカカイは、小さな島のなかで最も賑わう町である。島の朝は早く、午前4時には車が走りはじめ、島唯一のパン屋、カネミツ・ベーカリーが開けば、朝食とコーヒーを求める人々が出たり入ったり。朝6時にもなれば、新聞を片手に朝の会話を楽しむ年配の人々の姿が町のあちらこちらに見られる。
昼前には港から朝一番で漁に出た船が町に戻り、人々はトラックの荷台の大きなクーラーボックスに詰められた魚をのぞいては、漁の話や今晩の酒の肴の話などに花を咲かせている。町に最も活気があふれる時間だ。小さな町には食品から雑貨などを売るマーケット、Tシャツなどの簡単な洋服を売る店、港町ならではのフィッシングやマリン・スポーツに必要なものを売る専門店、ノスタルジックな町にぴったりなアンティークや本、島のアーティストが手がけたアートやクラフトを売る店が並ぶ。
ここではショッピングそのものを楽しむというよりは、ビンテージ・アイテムやモロカイ島にしかないだろうと思える掘り出し物を見つけたり、古い時代の商品の懐かしさに触れたりと、町を散歩することの楽しさを味わってほしい。急ぐことはまったくなく、町の人々の動きを眺め、店をそぞろ歩き、時間のたっぷりあるお年寄りと話をする、こんなひとときはまさに旅の醍醐味といえるのではないか。
昔と変わらない島にタイムスリップした旅を楽しむには、島の人々の暮らしの時間にあわせること。朝7時にはカネミツ・ベーカリーに足を運び、朝食を楽しみ、本などを読み、漁から戻る船を待ち、町をそぞろ歩く。午後3時にもなれば、町は閑散としはじめ、人々は帰途につく。宿に戻って、ビーチで一泳ぎするなどして、一日の疲れをいやしたら、シャツをはおってサンセットを眺める準備をしたらいい。モロカイ島には新しいものは何もないが、変わらないよさをもつ素晴らしいものがたくさんある。
モロカイ島観光のポイント
1 モロカイ島の北、海に面した断崖の絶景
海に面した岩壁としては、その高さは世界一ともいわれる。切り立った崖はモロカイ島の背中と呼ばれ、パラアウ州立公園からハイキング・トレイルを歩くとその絶景が楽しめる。
2 モロカイ島の南、米国最大の岩礁の美しさ
他の島に比べて圧倒的に海の交通量が少ないため、珊瑚礁の美しさは抜き出ている。珊瑚礁に守られた穏やかな海は水上を自由に行き来できるカヤックにも最適。
3 モロカイ島の東、ハラヴァ渓谷
半円を描くようにそびえるハラヴァ渓谷内の自然を堪能するには、専門のガイドが必要。ガイドとともに歩くことのできる、初心者向けのハイキング・トレイルが用意されている。
4 モロカイ島の西、パポハク・ビーチのサンセット
広大な白い砂浜が続くモロカイ島の西端。聞こえる音は波の音だけという静かなビーチで、海に沈んでいく太陽を眺めるほど贅沢な時間はないだろう。
5 カラウパパでハンセン病の歴史を学ぶ
ハンセン病の患者を送った場所として知られるカラウパパは、今もその歴史を残している。かつて切り立った崖に閉ざされていた半島を行くミュール・ライドは、トレイルの一部の崩落により一時休止しているが、今年10月に工事が開始される。工事終了後、ツアー催行のための準備期間を経て再開される見込みだ。
6 ハワイ唯一のプルメリア・ファーム
日本でも人気の香りのよい花、プルメリアを育てるファームは今やモロカイ島のみとなった。島の中央部のあたりに広がるファームの「モロカイ・プリメリア」では、花を糸で紡ぐレイの作り方を教えてくれる(要予約)。
7 モロカイ島唯一の信号機のある町、カウナカカイ
50メートルほどしかない商店街は島の中心地。カウナカカイは1900年の初めに町としての形を得た後、ほとんど変わっていないともいわれるレトロ・タウン。
8 カネミツ・ベーカリーに秘密のパンを買いに行く
島でたった1軒のベーカリー、カネミツ・ベーカリーでは、夜10時にベーカリー裏口でホット・ブレッドと呼ばれる焼きたてパンを販売しており、島の名物となっている。
9 オーガニック・ファーム「クム・ファーム」
パパイヤを中心とした果物、レタス、トマトなどの野菜、ハーブ類を育てているクム・ファームでは、果物と野菜の直販、食を通じた健康法としての料理教室を開催。レシピも配布している。
10 モロカイ島の各種イベント
島独自のイベントとして有名なのが、カヌー・レース「モロカイ・ホエ」と、「カ・フラ・ピコ」と呼ばれる、フラというハワイの文化を象徴する踊りの発祥を祝うための催し。イベントをきっかけに島を訪れるのも一興だ。
今週のハワイ50選
カラウパパ(モロカイ島)
取材協力:モロカイ・フェリー、ホテル・モロカイ、モロカイ・アウトドア・アクティビティ
取材:神宮寺 愛