• 体験レポート
  • ライフ&カルチャー
  • マーケットトレンド
  • インタビュー

話題の新作ショー「ハァ:ブレス・オブ・ライフ」

091210_hwi_01.jpg 約13年に渡って好評を博したポリネシア・カルチャー・センターのイブニング・ショー「ホライズン」に変わり、今年8月14日に新たなショーが幕を開けた。「ハァ:ブレス・オブ・ライフ」である。ポリネシア各国の歌やダンスを取り入れたスタイルは同じだが、よりストーリー性を高め、ステージもキャストもバージョンアップ。約3年の歳月をかけて創り上げたショーの舞台裏を取材し、完成度が高いと噂のステージを見学した。
                  
 3年かけた自信のショーが完成

091210_hwi_02.jpg ポリネシア・カルチャー・センター(PCC)で過ごす時間のなかでも、イブニング・ショーの存在は最大にして最高の見せ場である。長い間その役割を担ってきた「ホライズン」に変わり、新たなショーの創造に取り組んだのは、主に次のような理由からだ。ひとつには、ショーは7年に1回程度変えるという考え方があったから。もうひとつは、数年前にホノルルで新たなショーが立ち上がるという話が聞こえてきたからだ。結果として、ホノルルのショーは立ち消えてしまったが、ホノルルより離れた場所にあるPCCが危機感を抱き、気合を入れて取り組んだのが、新たにお目見えしたイブニング・ショー「ハァ:ブレス・オブ・ライフ」というわけだ。

 3年間、300万米ドルをかけて開発した新しいショーは、主人公の少年マナの成長物語。マナは、ハワイ、トンガ、ニュージーランド、サモア、タヒチ、フィジーそれぞれの国のポリネシア文化を通し、人生の悲喜交々を経験していく。ゆえにストーリーは、マナの誕生、成長、青春、出会い、結婚、戦い、親の死、子供の誕生といった、いわば輪廻転生が軸。ストーリーはシンプルだが、これにポリネシア文化をからめ、観客にどう伝えていくかがこのステージの大きな鍵となる。そのため、音楽やダンスで感情を表現し、効果的にアニメーションを併用することで、ストーリーを補足していく手法をとった。会場全体に一体感が生まれるよう、客席からキャストが現れるといった新たな演出も取り入れている。

 ショーの会場は、2675名を収容するパシフィック・シアターだ。毎日(休園日を除く)午後7時30分に開演し、途中10分間の休憩を挟んで、所要時間は90分。ご存知のように、PCCにはさまざまなパッケージが用意されており、多くがこのイブニング・ショーを含んでいる。昼から園内でたっぷり遊び、夕食やイブニング・ショーも付いたアンバサダー・デラックス送迎付(大人142米ドル/子供107米ドル)や、夕方からの「トワイライト・スタンダード送迎付」(大人77米ドル/子供63米ドル)などがある。


リハーサル中の舞台裏へ

091210_hwi_03.jpg 今回は夕方からのツアーに参加した。PCCはオアフ島北部ノースショアのライエという街にある。ワイキキの中心地から車で約70分という距離は、決して近いとはいえない。この距離にもかかわらず足を運んでもらうには、目玉であるショーに確かな訴求力が必要だ。

 現地に到着したのは午後5時過ぎ。この時間だと園内の各ビレッジを見て回ることはできないが、特別にイブニング・ショーの舞台裏を見学させてもらった。パシフィック・シアターに入っていくと、キャストがリハーサルの真っ最中。どこからでも見やすい半円形の造りになっていて、ステージが近くに感じる。新しいショーのために、かつてステージと客席の間にあった噴水は取り去ってしまったとのことだ。

 ステージの裏手では本日の主役、マナ役のボイドさんに会うことができた。マナ役は3名のキャストがローテーションで担当しており、ボイドさんはその1人。シャイで写真撮影は恥ずかしいということだったが、マナ役について「1回の舞台で本当にマナの人生を生きているように演じている」と語ってくれた。作業台で作られていたのは、片方に火をつけ、片方が斧になっているファイヤーナイフだ。後半のファイヤーナイフダンスに使うものだが、その数が実に多い。スタッフの話では、一番盛り上がるファイヤーナイフダンスの時間を増やし、より迫力あるステージを作り上げているという。それにしても、実際に火を使うファイヤーナイフダンスでは、演者には火傷が絶えないらしい。

 そんな緊張感あふれる舞台裏とは裏腹に、参加者はショーの前にディナータイムとなる。レストランは2つ。どちらもビュッフェだが、今回はデラックス・パッケージに使われる「アンバサダー・レストラン」で夕食をとった。ビュッフェは、ローストビーフやカニなどが並ぶ豪華版で、日本人客を意識した寿司やおにぎりなども並んでいる。ちなみに、レストランの外に長蛇の列ができていたが、これはハロウィーン期間限定のアトラクション「ホーンテッド・ラグーン」を待つ人々の列。ショーの開演を待つ人たちと混ざり、園内は人でいっぱいだった。

091210_hwi_04.jpg

 いよいよ開演、そして興奮

091210_hwi_05.jpg 前から4列目という良席に座る。後ろを見回すと、どうやら2675席はいっぱいのようだ。生のステージだからか、舞台裏を見学したせいか、こちらにまで緊張感が伝わってくる。暗転後、まずは男女の逃避行からはじまり、マナの誕生シーンへとストーリーが進んでいく。4列目ということもあるが、演者との距離はかなり近い。場面転換ごとに頭上左右のスクリーンにアニメーションが映し出され、この次に起こることを説明していく。もちろん言語は英語だが、影絵のようなアニメーションなので、見ているだけで理解できる。「アニメ」と聞いていたので、ステージとどのように融合させるのか興味があったが、影絵のようなタッチがステージの雰囲気を壊すことなく上手く使われていた。

 ダンスシーンは、やはり迫力満点だ。ポリネシアのダンスはどの国のものであっても、男性は雄々しく、女性は美しく、というのが魅力。ラニとの出会いのシーン、戦闘シーン、父親を亡くすシーンなど、どれも音楽とダンスだけでストレートに伝わってくる。クライマックスのファイヤーナイフダンスは、想像以上に圧巻だった。自由自在にファイヤーナイフを操るメインダンサーの技が群を抜いている。これまでいくつものファイヤーナイフダンスを見てきたが、これほどの気迫に満ちたステージは初めてだ。肩にぐっと力が入るような演技が終わると、マナとラニの間に新しい命が誕生するエンディングへと入っていく。最後のカーテンコールでは惜しみない拍手が送られ、90分はあっという間に過ぎた。

 食い入るように見入ってしまったショーだが、前に3列しかない状況で、時折デジカメをもった手が突き出されるのが気になった。あくまでも観光客に向けたエンターテイメントであるため、フラッシュは禁止しているものの、カメラ撮影までは禁止されていない。とはいえ、絶えず激しいダンスをしているキャストを普通のデジカメでは捉えきれないだろう。今、目の前で繰り広げられている生身の人間の姿は、その目に焼き付けた方がきっといつまでも記憶に残ると思う。ぞろぞろと客席を後にする観客に混じって外に出ると、先ほどまで激しいファイヤーナイフダンスをしていたキャストが、記念撮影に応じていた。そのサービス精神に感心しながら、心の中でもう一度拍手を送った。

 

取材:竹内加恵