体験レポート:冬のハワイの風物詩、ホエール・ウォッチング
冬のハワイの風物詩、ホエール・ウォッチング
~ザトウクジラの雄姿をクルーズとともに楽しむ~
冬のハワイの風物詩のひとつが、ホエール・ウォッチング。クジラの雄大な姿を一目見ようと、毎年12月下旬から4月上旬の期間限定でホエール・ウォッチング・クルーズが運航され、人気を集めている。これはアラスカ近海に生息するザトウクジラが、冬の間は暖かいハワイの海域へ南下をしてくるためで、その旅は約5000キロにおよぶという。今回はアトランティス・クルーズのナバテックI号に乗船し、オアフ島でのホエール・ウォッチング・クルーズの様子をレポートする。
船上から移り変わる景色を
冬の間、アラスカから出産と子育てのためにハワイにやってくるザトウクジラ。ハワイ沿岸でその姿が見られるのは12月から5月初旬までといわれる。なかでも2月から3月にかけては、ホエール・ウォッチングがピークを迎える。
今回乗船したナバテックI号は、船体下部が潜水艦のように水面下を走行するSWATH(スワス)設計となっており、外洋の荒波の影響を最小限に抑えているから、波の高いダイヤモンド・ヘッドの沖合を越えて、カハラコーストまでクルーズできるのが特徴とのこと。この日参加したランチクルーズでは、アロハタワー・マーケットプレイスのピアに停船しているナバテックⅠ号への乗船が午前11時30分にスタートした。
乗客は日本人をはじめ、オーストラリア人、ヨーロッパ人、アメリカ本土、アジアからの旅行者など多彩な顔触れ。家族連れに加えて、友人同士などの乗客も多い。正午12時にいよいよ出港。アロハタワー・マーケットプレイスのピアを離れると、みるみるうちにワイキキ、ダイヤモンド・ヘッドと移り変わる景色が船上から楽しめる。この時期のハワイは1年のなかで天候が変わりやすく、雨が降ったり海が荒れたりすることもあるそうだが、この日は快晴。そして海も、クルーズのスタッフがこの数ヶ月見たこともないというほど穏やかだった。その上を滑るようにクルーザーは14、15ノット(時速約25~27キロ)で進んで行く。
盛りだくさんのランチビュッフェ
海上に出てすぐにランチビュッフェ開始のアナウンスが入った。ビュッフェは、ロールパンにフレッシュグリーンサラダ、ハワイ風の照り焼きソースでこんがり焼き上げた照り焼きチキン、サーモンのグリル料理、それにクリーミー・マッシュドポテト、ブロッコリーやカリフラワー、ニンジンなどをガーリックバターで蒸したスチームド・ベジタブルにライスがずらりと並ぶ。これとは別にデザートとしてココナッツ・ケーキとパイナップル、スイカ、マンゴーなどのカットフルーツが置かれていて、バラエティ豊富だ。
そんななか、ナバテックI号はさらに東へと進んで行く。通常、一般道路からは見えない、いつもと違った海からの景色が見られるのも、このクルーズの醍醐味かもしれない。ダイヤモンド・ヘッドあたりでは灯台が見えるほか、ダイヤモンド・ヘッドをハイキングした時には気がつかなかった戦跡も見つけることができた。クルーズはさらにハワイカイの方へ進み、ココヘッドが近づいてきた。このあたりにビーチは一切なく、切り立った岩壁の下にいきなり海が広がっているなど、これも道路からでは見ることのできない景色であった。
ハワイカイ地区のマウナルア湾は、NOAA(米国海洋大気圏局)のザトウクジラ国立海洋保護地区のひとつとなっている。このクジラ保護区では、船が停泊していてクジラが近くにやってきた場合を除いて、クジラに100ヤード(約91メートル)以上近づいてはいけないというルールがある。さて、この付近で船内ではクジラについての説明がはじまり、生物学専門家が一番先頭のデッキに立ち、クジラがどこにいるか探している。
クジラの雄姿に歓声が
生物学専門家が「船首に向かって12時の方向に見えた」とアナウンスすると、前方のデッキにいる乗客はその方向に身を乗り出し、クジラを一目見ようと一生懸命だ。潮吹きが見えると「ワァー」と歓声が上がる。クジラの姿は少し遠いが、望遠鏡で一生懸命見ようとしている人、写真を撮ろうとする人など、思い思いのスタイルでクジラを見る人で狭いデッキは賑わっている。この潮吹きは「スパウティング」と呼ばれ、クジラが水面で呼吸をするために行なう動作。6メートルの高さまで潮を吹き上げることがあるそうだ。
クジラは通常2頭から5頭くらいでひとつの群れをなしているようだが、クルーズ中すぐに見つけられるとは限らない。10分くらい何も見つけられない状態の時は、生物学専門家が以下のようなクジラの話をしてくれるが、これが観光客にとって意外と知らないクジラの世界を教えてくれるもので、興味深い内容だった。
ハワイの海は非常にきれいである。だからこそ、時にはウミガメが泳ぐ姿を見つけることもできる。しかしきれいな海は、プランクトンがあまりいない海ということでもあり、それは、クジラにとっては食べ物が少ないことを意味する。アラスカの海では1日に約1000キロもの食べ物を摂取していたクジラが、1ヶ月以上かけて南下し、ハワイの海に落ち着くと、その体重は約3分の1まで落ち、1万5000キロくらいは減ってしまうという。
毎年1万頭近くのザトウクジラがこのハワイ近海にやってきて、子どもを生み、育てる。そして時折、海上に出てくるクジラを私たちが見ているわけだが、「アラスカの海では1時間くらい平気で海中にいるクジラが、ハワイでは5分から10分くらいの間隔でその姿を見せるのは、子どものクジラと一緒に泳ぐため。子どもは肺が小さく頻繁に海面に上がってこなくてはならないから」とスタッフが話してくれた。
ナバテックI号は小刻みに東、西へと動き、今日はココヘッドの岸からかなり遠くを航行している。まさしく、クジラを探しながら動いているわけだ。クジラが海面から海の中に戻るとき、体を曲げて尾びれを水面にまっすぐ突き出して勢いよく海の中に潜って行く「フルーキング」を肉眼で見ることができた瞬間は、なんだかとても嬉しい気持ちになる。尾びれだけでも長さ4.5メートルはあるという大人のクジラ。その雄姿を見るためだけに、暑い日差しも気にせずにデッキに立ち続ける大勢の観光客の姿こそが、ホエール・ウォッチング・クルーズの魅力を証明しているともいえよう。
ダイヤモンド・ヘッド(オアフ島)
ワイキキ(オアフ島)
取材:堀内章子