旅行業界におけるITソリューションの現状とその活用法 (2/5)
旅行業界こそツイッターを活用できる環境―山敷 隆氏
ネットを広告媒体として利用する場合、「ソーシャルメディア(SM)を有効活用することが重要」と山敷氏は言う。SMとはツイッター(Twitter)、ミクシィ(mixi)などに代表される、個人単位で気軽に情報を発信できるツールである。ただ情報を発信するだけでなく、受け手側からも質問や感想を投稿して発信者に届けることができる双方向性を持っている点で、一方的に情報を発信するだけの従来のメディアとは異なる。
山敷氏によれば、「今年はSM元年」と呼ばれており、いよいよSMがメディアとして、またプラットフォームとして定着。ツイッター利用者が日本で1000万人を超え、主に海外で利用度が高いフェイスブック(Facebook)にいたっては全世界で5億人の利用者がいるという。「世界人口の50%は30歳未満で、その96%がSMを利用している」といい、とくに若い世代ではほとんどの人が利用している。
また、企業広告を信用する人が14%なのに対し、口コミ情報を信用する人は90%にのぼるというデータもあり、企業側の発信した情報より個人が発信した情報のほうが広告としての効果が高いことも指摘。つまりSMは若い世代に対し特に有効であり、またいかにして一般ユーザーにSMを通して口コミ情報を発信させることができるか、ということがポイントとなっている。お得な旅行商品の広告よりも、自分の知り合いがどの旅行会社でなにを買ったかといった内容のほうがずっとインパクトがあるというわけだ。
・ツイッターに注目
山敷氏はSMの中でも140文字までの短い文章を"つぶやき"として情報を発信できるツイッターに注目。ツイッターでは発信者の"つぶやき"を日常的に閲覧している人の数を「フォロワー(follower)」といい、フォロワーは熱心に自身の発信する情報を追ってくれている、いわばファンともいえるが、情報の閲覧自体はフォロワーでなくともでき、情報を見た人がそれを発信するに値すると判断すれば自分の利用するSMを通じて発信していく。それがSMの効果であり、「重要なのは自社や自社商品の良い評判を流してくれる人を増やすこと」。情報が閲覧者にとって有益でなければ彼らが仲間に情報を発信する動機にはならないという。有益な情報とは「閲覧者個人に合っているかどうか」がポイントなので、より細かくカスタマイズされた情報を発信していかなくてはならず、一般的な商品紹介をするだけでは話題にされるのは難しい。
ではどのように活用すればいいのか。山敷氏は実際にツイッターによって良好な企業イメージを発信し続けているケースとして、ソフトバンクの孫正義氏のツイートをあげる。それによると、孫氏のツイートには65万のフォロワーがつくほどの人気で、一般人が商品に関する質問や意見を投稿した場合、1人1人に短い時間内で回答しているからだという。もちろん、孫氏がすべて回答しているわけではないかもしれないが、一介のユーザーの声にもきちんと対応してくれるという企業イメージを打ち出すことに成功しているのだ。
旅行会社でもこの応用は十分可能で、ツイートの中で顧客への対応力、その質の良さ、商品知識を表現できることが理想だ。それには「こういうツアーはある?」「○○へ行くならいつがベストシーズン?」といった個人的な質問を気軽にすることができ、それに的確に応えていくサイクルを作ることが必要である。
・ツイッターを効果的に導入するヒント
もっと画期的に、ツイッターユーザーが自ら情報を発信したくなるシステムを導入するのも効果的だ。ツイッターの投稿の傾向を見てみると、電車の中やちょっとした待ち時間などヒマなときの投稿が多く、旅行会社の待ち時間はまさに「ツイートの時間」といえる。
たとえば待ち時間に「年末のハワイ旅行申し込みに来たなう(※「今~をしている」という内容の際、「なう」と最後につけるのがツイッターユーザーのお約束になっている)」などのツイートをしてもらうことで、閲覧者の興味を少しでもひくことができ、さらに「カウンタースタッフの対応がよかった」「割引きサービスがあった」といったような生情報をツイートしてくれればそれは閲覧者にとって信用性の高い口コミ情報ということになる。
また、最近ツイッターに搭載された携帯電話などのモバイルツールのGPS機能を用いて自分の居場所を特定し、そこに「チェックイン」したことをツイートすることができる機能も利用価値が高い。米国のマクドナルドではチェックインしたお客にランダムで商品をプレゼントするキャンペーンを行なったところ、来客数が33%増加したといい、またスターバックスコーヒーでもチェックインの回数が多い人に特典を与えるといったキャンペーンを開催している。旅行会社の場合、チェックインした人がボタンひとつでツイッターに"つぶやく"ことができる機能をつけることで、つぶやき回数増につながると考えられる。
これだけモバイルツールが広がっている今、山敷氏は「旅行業界ほどこの環境を効果的に使える業界はない」と言いきる。というのも、ツイッターは利用者の8割が携帯電話のみ、もしくは携帯電話とPCの併用でつぶやきを投稿しており、なにかあったらその場で情報発信というリアルさが売りだ。特に爆発的な売れ行きであるスマートフォンは海外でもデータ通信が使い放題というパケット契約が前提なので、旅行者はリアルタイムで現地情報を発信することができる。旅の魅力や楽しさを旅行者に海外からその場で発信してもらえば、それは非常にインパクトのある情報であり、大きな宣伝効果をもたらす。より多くつぶやいた旅行者に特典を与えるキャンペーンなどを開催すれば、発信者を増やすことができるのでは、と山敷氏は考えている。