JTBのIT戦略-ITPro EXPO講演より (3/3)
全社的にIT戦略を推進するために
志賀氏が今回、同講演に登壇したのは、「日経情報ストラテジー」の「CIOオブ・ザ・イヤー2010」を受賞したことによる。講演では CIO(Chief Information Officer)の役割についても言及し、全社的なIT戦略を推進する上で試行錯誤した経験も話した。そのなかで課題のひとつとなったのが、システム投資の意思決定や開発プロセスにおいて、システムのユーザーと開発部門、経営者それぞれの思いがそれぞれ異なる状況にあることだという。
例えば、経営側は経費効率の良さやシステムの柔軟性と開発の迅速性を求め、実際に業務で使用するスタッフは業務プロセスを理解し、現場やマーケットニーズを把握したうえでのシステム導入を望む。一方、開発側はこうした要求をクリアしようと努力するものの、ユーザーの要望は立場によって内容が異なったり、経営側の要望に沿って作っても結果的に使われないことも多かったりするため、内心ではシステムにすべての解決を期待しないでほしいと思っているという。
こうした三すくみの状態がプロジェクトの失敗につながるため、志賀氏はその解消とコントロールがCIOとして与えられたミッションだと捉えた。そのため、志賀氏が委員長をつとめるIT戦略委員会では経営者とユーザー、システム開発者が一堂に会して審議し、方向性を確定することで、課題意識の共有、参画意識やコスト意識の徹底をはかった。また、アプリケーションの開発などの際に、原則としてユーザーが要件定義や開発、スケジュール管理、稼働までの全責任を負うようにし、受益者負担意識の徹底やオーバースペックの回避、そして開発途中での要件定義の変更・追加など、無責任な「言いっぱなし」の抑制につなげたという。
さらに、長期IT戦略の第2段階では長期IT戦略を計画・執行するベースとなる、IT投資基本理念と基本方針も策定。投資対象やその対象範囲などの枠組みを定めた。基本理念として、すべてのシステムがグループ全体の財産であるとし、顧客満足の向上と事業パートナーとの共栄、全社員による価値創出を実現し、企業価値の向上に貢献していくことが重要であるとしたほか、IT 投資の基本方針として、大規模投資は成長分野や重点分野であるウェブやグローバル事業での新たな価値創出を目的とした案件に特化していくことを明確化した。
志賀氏はCIOの役割は、IT戦略の組み立てと執行のみならず、利害関係者の間に不満がたまらないよう意思決定プロセスを大切にして、投資効果を厳正に判断していくことだと話す。そして、経営者とユーザー、開発担当のそれぞれの思いを解消し、コントロールしていくこともIT戦略を推進する上で大切であると語った。