インセンティブの手配の実態
シビアさ増す対価への精査、成果への期待
~オーガナイザーのニーズの変化と手配の実態~
MICEは旅行会社の手腕を発揮し、収益を得られると期待される分野だ。しかし、「旅行会社の提案が、希望する内容にあっていない」という不満や失望がオーガナイザーから聞こえ、実際「自社でプランニングをし、旅行会社には必要部分だけの手配を依頼する」という企業もある。長引く不況に世界的な経済悪化の打撃もあり、市場動向の変化にあわせてオーガナイザーのニーズ、要望が変わるのは必然。そこで今回は、オーガナイザーと旅行会社の双方の手配を知るホテルの営業担当者2名に実態を聞いた。ホテルではMICEのうち、特にミーティングとインセンティブを扱う例が多い。
海外インセンティブの旅行会社手配は8割以上
ザ・ペニンシュラホテルズ日本地区・韓国地区統括部長である中村清氏によると、同ホテルのMICEはミーティングとインセンティブが中心で、特にインセンティブの利用が多い。本当にトップの人にラグジュアリーな経験を提供したり、スケールの大きなインセンティブでは、あえてランク付けをする際の最上クラスとして利用されたりするケースが多い。そのため、オーガナイザーからは「ペニンシュラでなくては味わえないプランを出してほしい」というニーズが多いという。
申込みのうち、旅行会社経由は約8割。国内は直接手配のケースが多いものの、海外はほとんど旅行会社経由だ。「ホテルはホテル内のことなら対応できるが、それ以外はできない。海外はエアやランドの手配のほか、保険などもあるので旅行会社は欠かせない。特にガイド手配では性格や得意分野を把握した上で手配できる強みがある」と中村氏。ただし、「受注するのはインセンティブを強みとする旅行会社や専門会社、新たにMICE専門部署を立ち上げた企業などが中心」で、取扱う会社が偏っていることを指摘する。
日本スターウッド・ホテルのグローバルセールス営業部長である山下誠氏も同じ見解だ。スターウッドではミーティングが最も多く、次にインセンティブが続く。全世界に約940軒を展開するスケールと9つのブランド構成を利用し、エグゼクティブクラスのミーティングからマネージャークラス、セールスミーティングなどの使い分けが可能であるのが特徴。宿泊をともなわない会議は直接手配が多く、アジア太平洋地域での開催で日本企業がハンドリングする場合でも、増えつつあるという。
ただし、海外インセンティブは旅行会社経由の予約が約9割と高い。飛行機やランド手配などのほか「海外は時差、英語でのやり取りなどの手間があるので、オーガナイザーは旅行会社の必然性を感じている」という。しかし、「国内は現在、直接手配も増えている。また、海外でもじわじわと直接手配を検討する企業がでてきている」と、予算削減や事業縮小によってコスト管理が厳しくなったオーガナイザーの動向を示唆する。
手間をかけて安くするか、費用をかけて任せるか
では現在、オーガナイザーがMICEに求めることは何だろうか。中村氏によるとイベント内容において、直接手配と旅行会社経由での手配に差異は見られないようだ。ただし「今の経済状況でも、ミーティングやインセンティブがなくなることはないが、開催回数や招待人数を減らす傾向はある」といい、インセンティブの場合、招待者を厳選して規模を縮小しつつも、「この会社のパーティはすごかった」と本当に喜んでもらって成果が得られる内容が求められ、要望が凝縮したという。予算削減や事業縮小のなかで開催するからには、それだけの期待がともなうということだ。
これに加えて、山下氏は価格の精査が厳しくなった点を指摘する。「旅行会社がMICEの入札をする場合、エアやホテル、ランドなどをふくめた包括価格の提示だったが、現在は各単価の提示も求められるようになってきた」という。そのため、サプライヤーなど個々に価格提示を求めるオーガナイザーもある。また、スターウッドではイベントプランナー向けのリワード・プログラム「スターウッド・プリファード・プランナー」を設け、MICEの取り込みを強化しているほか、購買担当が業務渡航とあわせて一括購入をするニーズがあることから、BTMとあわせたコーポレート料金提示も開始した。オーガナイザーのなかでは、自己で一つ一つの手配をし、手間をかけても安く上げるか、費用をかけて総合的に任せるかの判断が、ますます厳しくなっている。
固定観念をなくし、ニーズに正対したコミュニケーションが必須
現在のMICEのポイントとして、山下氏は「『どこに行くか』から『その場所で何ができるか』」だという。「特別感」がキーワードで、単なる高級ホテルでの宿泊や食事では満足しなくなっている。例えば、スターウッドでは以前、ホテルだけでなく京都ではお寺、アメリカでは某美術館といった、普段では開催できない場所でのディナーをケータリングで実現。ペニンシュラでも下着メーカーをオーガナイザーとするインセンティブで、200名の参加者すべてが女性であったことから全員へのスパトリートメントの提供を要望され、バンケットルームに40台のベッドを特設して対応し、大変喜ばれたという。
しかし、「新しい仕掛けは日本人が苦手とする部分。前例がないという一言で実現しないこともある」と中村氏は話す。また「固定観念をなくして、目新しい提案をすることが大切。企業のプランナーは、日本人的な感覚ではない」と山下氏もいい、「旅行会社ができないと思ったことも、話を聞いてみると実現可能なケースが多い。企業のプランナーは専門化しつつあり、旅行会社が知識を高めていかないとオーガナイザーが不安になって、それがMICEビジネスの衰退化の原因にもなる」と危惧する。
山下氏は「最近のオーガナイザーは自分たちが望むことを明確に伝えることができる。あとはそれを受けて、旅行会社がどう対応するか」といい、中村氏も「オーガナイザーが求めることは法に触れず、他のお客様に迷惑がかからず、施設を破壊しないで対応できるものは何でもする」と強調。そのためには、「できることとできないこと」「サービスの有償と無償の範囲」を明確にしたコミュニケーションで信頼を勝ち得つつ、新しい発想の提案で要望を満たしたインセンティブを実現していくことに尽きる。
両氏は旅行会社がプレゼンする際、担当者が不慣れな場合はホテルの担当者が同行して説明することや、要望に応えようとして何でも「できる」と答えてしまう旅行会社の営業担当がいると話す。無理なこともできると答えた場合、現地でクレームになって結局は問題になる。こうしたことも「旅行会社の知識が足りない」という、オーガナイザーの不満や失望につながっているのかもしれない。