逆風下の現状と今後の展望
経済不振、新型インフルエンザ下のMICEビジネス
~先々に明るい兆しを見据えた提案がカギに~
団体の不振続く
旅行会社におけるMICEビジネスは現在、苦境にあるといえるだろう。昔から団体営業に強く「団体の近ツー」とされてきた近畿日本ツーリスト(KNT)だが、2008年度の海外一般団体は前年比4%減、学生団体も4.9%減で、団体合計4.2%減と前年実績を下回った。日本旅行も08年度はジャパンウィーク(フランス・ストラスブール)の強化や「韓国大送客キャンペーン」を実施したが、団体旅行の販売高は前年比12.3%減と2ケタの減少となった。団体旅行を中心とする渉外営業を中核事業と位置づけるトップツアーも、08年度決算では「海外の団体旅行は自治体、省庁や教育旅行の販売は好調に推移したものの、一般法人向け販売は年初から9月まで続いた燃油サーチャージの上昇や円安の影響を受けて落ち込み、全体としては前年を下回る結果となった」と説明している。
MICEビジネスが振るわない要因の一つとなっている世界的な景気後退は、今年になっても明確な好転の兆しを見つけることができない。インセンティブを得意とするジャパングレーラインも専務の安達敏春氏によると、「インセンティブが欠かせない自動車や電機、保険業界などでも、経費削減のため、やむをえず今年度は予算縮小あるいは中止の動きがある」としている。
09年第1四半期も上向きの推移は感じられず、悪化している。例えばKNTの海外団体の取扱実績は、1月が27%減、2月が9.7%減、3月が23.3%減、4月が22.1%減で、1月から4月までの合計でも一般団体が23.8%減、学生団体が23.8%減で、団体全体でも22.7%減。前年を2割以上も下回る厳しさだ。
新型インフルエンザはSARSより深刻な影響も
新型インフルエンザは感染地域が東南アジアなどに限られたSARSと比較して、感染地域が多数の国々に広がっており、影響度はSARS以上を考えられる。さらに5月になって日本国内での感染が報告されると、目的地を海外から国内へシフトするといった対応もできなくなり、旅行会社としては身動きが取れなくなってきている。旅行会社からは「SARSというより、旅行全般が自粛になった昭和天皇崩御の時と状況が似ている」との声も上がる。現状の市場に対して、これまで通りの取り組みでは需要を喚起できない状況にあることがうかがえる。
カギはSITへの取り組み
ジャパングレーラインの安達氏は、景気後退と新型インフルエンザの影響を極力軽減する対策として「比較的安全で近い開催地を選び、顧客企業に対して韓国、台湾、マカオ、グアム、ハワイなどを提案している」という。逆風を正面から受けないように工夫してしのごうというわけだ。
一方、もともと外的要因に影響を受けにくい需要へのアプローチを強化しようというのがKNTだ。同社では「韓流スターのファンミーティングなどは、韓国で新型インフルエンザの感染者が出たにもかかわらずほとんどキャンセルがないツアーもあった」(ブランド戦略室広報)という現象に注目。比較的影響を受けにくいと考えられる韓流ツアー、マラソン、ファンミーティング、スポーツ観戦、イベントなどSIT系の需要へのアプローチを強化する方針だ。なかでも1980年から30年近くの実績がある「まつりインハワイ」は大黒柱のひとつ。同イベントは新型インフルエンザの流行にもかかわらず、6月に開催された第30回には前年を上回る2400名、141団体が参加。KNTでは「目的を持って準備を周到にすれば、旅行やイベントを問題なく実施・開催できることを証明している」(ブランド戦略室広報)としており、来年も今年以上の集客をめざして準備を開始している。
また、JTBはMICEビジネスにおけるイベントの取扱い強化に着手。各種イベントの受付・決済をすべてウェブ上で完結する新システム「AMARYS」(アマリス)を開発し、6月1日から稼働している。大会や学会を含むイベントの申込みのほか、ホテルや交通機関の手配オプションやオプショナルツアーの申込みも可能で、イベントの申込みを入口にMICE需要を包括的に受注するのがねらいだ。2010年度はアマリスの効果を含めて500件のイベントの取扱いをめざし、イベント関連で総取扱額50億円を目標としている。
MICEビジネスは現状、沈滞ムードが否めないが、すでに企画、提案作業がスタートしている2010年の素材として、南アフリカでのサッカーワールドカップやバンクーバー冬季オリンピック、上海万博といった、需要の強い大型イベントが複数ある。こうした中、先々を見据えてクライアントに対していかに明るい提案ができるかが、MICE営業のカギとなりそうだ。