「MICEとは?」⑮
「MICEとは?」⑮
「COMMUNICATIONを高める~べニュー」
MICEが実施される場所、つまりは開催地、現場、会場を総称して「べニュー」と呼ばれることが、わが国でも多くなりました。もう10年以上も前に参加したミーティング・ビジネスに係る国際大会で、恰幅の良いニューヨーカーの女性と初めてあった時のことです。彼女が私に差し出したのは、端が噛まれた跡があるような名刺でした。
名刺を読むとニューヨークでステーキ・レストランを何軒か営むオーナーでした。間髪を入れずに「お会いできて嬉しいわ。私のレストランはコーポレートのミーティングや会合に最高の"ベニュー"なの」と、ウィンクしてくれました。べニューという言葉を聞くたびに彼女の笑顔とユニークな名刺を想い出します。
MICEのべニューに求められることはというと、それぞれのMICEを良く理解して頂きたいということです。時々、私自身もMICEを計画したり演出したりします。べニューとのやり取り(コミュニケーション)が当然発生しますが、やはりMICEを理解してオール・イン・ワンで、一本の窓口でしっかり対応されると、当日の運営がうまくいくことのほうが多いです。MICEはやはり、GOAL(目的や目標)をもって開催されます。ところが、主催者がそのベニューでどのような成果(アウトカム)をあげたいのか、何を期待しているのか深掘りして聞いてくベニューは、さすがにわが国では少ないのが現状です。しっかりヒアリングをすれば、高品質を求めるミーティングやイールドを上げることを目的とした会議などに、1000円のランチボックスは提案しないと考えます。主催者の要望を良くヒアリングすることはイールド・アップに繋がるのです。
フレキシビリティとカスタマー・サービスの質の向上が今後、ベニューに取って大切なキーワードになると考えます。「あれはできません、これも当日では無理です」では、競合にどんどん取り残されていく運命になります。ミーティング・ルームひとつにとっても、演台は縦横のどちらを使えばスピーカーと聴衆の距離の平均が近いのか? スクリーンのサイズは常設のビルト・インよりもMICEの目的や聴衆の数に応じて、アウトソースすることを提案します。
また、ホテルなどの宴会場などは、同時通訳のブースから演台のスピーカーへの視認性が良いのか?シャンデリアが邪魔になっていないか? 仮設のブースを作成する必要があるのか?・・・
常にベニューはMICE主催者や関係者の立場になり、コミュニケーションの精度を高まるプロセスや演出の提案がされると良いと思います。
ミーティングだけではなくトレードショーなどでも、各ブースで手渡される販促用のコラテラルで重くなったショッピング・バッグを、両手に抱えて大きな会場を巡るのは大変疲れます。宅急便などのカウンターの用意は一般的になってきましたが、米国では参加者のプロファイル(名前や、住所は勿論嗜好や興味のあるトピックス等)を磁気テープにロードしたカードなども事前に配布されるので、ブースのリーダーでそれを読み取れば、パンフレットから大きなポスターまで、トレードショーから帰国する頃には自宅に届いているといった次第です。
カスタマー・サービスの質の向上のひとつとして、F&Bの質の向上は必要だと考えます。総じてコンベンション・センターなどのレストランが提供する食事は美味しいとはいえないものが多いのです。ただそこで最低限の食事が取れれば良いといった有様の施設が多く、MICEの参加者同士が高いコミュニケーションを交わす設計にはなっていないことが多いことに気がつきます。米国ではファースト・フードのイメージしかなかったユニバーサル・スタディオでも著名なシェフを取り込み、そのイメージを払拭することを数年前からはじめています。
競争がさらに加速する現代では、MICEの参加者と関係者がそのベニューでいかに精度の高いコミュニケーションを交わせ、生産性やROIの高いMICEを実施できるか。つまりは個々のMICEの目的を充分に理解する必要がある時代となってきています。
筆者:MPI Japan(Meeting Professionals International) 浅井新介 会長
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