インタビュー：西武トラベル代表取締役社長　糟谷愼作氏

MICE成功のキーワード（6）
「MICEは特別なものか」

　西武鉄道、プリンスホテルといった企業がグループ展開する西武グループの傘下にある西武トラベル。一般旅行の取り扱いはもちろん、MICE にも力を入れている。40年前に設立されたスポーツ部から派生したインバウンド業務や国内でのイベント事業に強い同社は、この不況下にあってもマイペースを貫く。同社の指揮官たる代表取締役社長の糟谷愼作氏に話を聞いた。

Q．御社におけるMICE事業への取り組みは

　当社では特にMICEに特化したセクションを設けていません。その代わり、「催事企画センター」があり、そこであらゆる"催事"に関する企画・営業をし、業務を受けています。催事だったら1から100まで、なんでも請けます。だって、MICEは「Meeting、Incentive、Convention、Event」の略でしょう。旅行のなかにこの4つのキーワードのうちひとつでも盛り込まれていたら、それはMICEということになる。たとえば旅先で記念に植樹というイベントをすれば、それもMICE。つまりMICEとは旅行に付加価値をつけることだと考えています。

　当社でMICEを手がけることになったのは、もともとは40年前にアイスホッケー部が立ち上がり、それにともなって外国のチームを呼んで試合をしたりしていたことから、インバウンド業務とその際に行なわれる歓迎パーティなどを企画したことがきっかけ。それが今でいう「MICE事業」なわけですが、当社ではこれまでもずっと手がけてきたことなのでMICEという言葉ではピンとこない。やっぱり「催事企画」ですよ。

Q．イベント企画となると旅行業者以上の業務内容ですね　

　業務に携わる社員はせいぜい2、3人ですが、請け負った業務によっては全社をあげて対応します。ここでいう「全社」とは西武グループ全体の社員のこと。実際の業務内容は旅行の手配だけにとどまらず、多岐に渡る。すでに旅行業務を超えていますから、グループ企業の協力やアウトソーシングで対応するのです。

　当社は若干200名の旅行会社ですが、グループ全体でいえば3万人。それぞれ得意分野がありますし、日本全国に拠点を置いています。当社の営業所がない場所では彼らがわれわれに代わって営業をする。催事企画センターはそうしたイベント執行の際にリーダーとなって動くわけです。とはいえ、グループ会社の協力による売り上げは全体の2割程度で、あとは他の旅行会社さんと同じ苦労をしていますよ（笑）。単に送客するだけでは生き残っていけないですからね。この不況下にあって、もちろん当社でも取り扱い件数が減っていますが、これを好機ととらえ「今こそ出陣！」と事業の再構築の機会としているところです。

　
Q．再構築とは、どのようなものですか

　インフルエンザとか世界情勢とか、今後の予想を立てることはできますが、どうなるかが明確にわかるわけではないですよね。この先の状況は不透明。だから今できることは情報収集、人脈の確保ですね。多くの業務を請けて手一杯のときにはあいさつ回りなどできないけれど、今なら取引先に顔を出すくらいはできる。そうして人脈を作っておかなければ、いくらいい企画商品を作ったって売り込む場所がなければ仕方ないですから。それに、こんなときにこそ動いてポジティブであることをアピールできれば、顧客にとって業者を選ぶポイントになる。意気消沈した人に大きな仕事を任せられないと思うのは普通でしょう。いつも元気でなくちゃ。だから、社員が休めるときはどんどん休んでもらって英気を養ってもらうというのも、今がチャンスですね。

Q．商品企画にあたっての心構えは

　「MICE」というとなにか大規模で特別な企画のように見えますが、実は企画そのものは一般旅行中に盛り込むイベント企画と同じなのです。先ほどいったような記念の植樹だって、まとまった人数ですれば「MICE」と呼ばれる。ハワイでコーヒーの木を植え、後に自分の木から採れた実を焙煎してもらって持ち帰る。焙煎にはお金がかかるので、そこでコーヒー豆を買うことになるのですが、ここでも利益を生みますよね。どのようなイベントがのちにMICEになり、リピーターや利益を生むのかを見極めることが大切です。

　はじめから大規模で大きな利益を生む企画をねらってはいけない。小さな企画が結果的に大きなイベントにつながったというケースは今までにいくらでもあります。お客様が楽しむだけでなくツアーとして進歩していくように、小さなグループ旅行でもなにかイベントを加えようということですね。そして、どんなイベントがMICEになりえるのかを考えていくわけです。

　MICEはなにも会社の規模が大きいからできるというものではない。すでに旅行業者の仕事の範疇を超えているのですから、企画ができてそれを実行するためにリーダーになれる人材さえいれば、あとはアウトソーシングでいいんです。難しく考えることはないんですよ。

ありがとうございました