MICEとは、(M)Meeting、(I)Incentive、(C)Convention、(E)Exhibitionの4つのビジネス・セグメントの頭文字をとった造語である。大型の国際会議団体という解釈もあるが、少人数の企業会議でもミーティング、料飲、宿泊がともなえば、立派なMICEのグループであると考えたほうが、MICEビジネスの健全な発展を考えるうえでは正しいだろう。例えば、グランド・ハイアット東京のMICEの定義は10ルーム以上の宴会をともなうグループと定義していて分かりやすい。
すべてのMICEに共通していることは(1)目的がある、(2)コミュニケーションの機会・場、(3)情報が集まる機会・場、(4)未来に良い変化をもたらす、ということである。
企業・組織が課題の解決を目的に開催するものなので、その形態は最初から「ミーティング」「インセンティブ」「コンベンション」「展示会」と決定しているのではなく、課題を解決するためにふさわしいフォーマットを選択して開催されるのが本来の姿だ。
企業・組織の戦略上、大切なことは顧客の期待を知り、その期待を常に越えるビジネスを開発・獲得し、その結果として企業の業績向上や経済的目標を達成することである。そういう観点でMICEは現在、企業・組織のマーケティング活動の重要な柱となっている。
ミーティング・ビジネスを核とするMICEビジネスは、基本的に2つのグループに分かれる。MICEをデザインし、計画、運営をしていくミーティング・プランナー(MP)と、MICEにプロダクトやサービスを提供するMICEサプライヤーだ。
また、MPも会社や組織の社内MPと、社外で活躍するインデペンデントMPの2つがある。日本では、輸送機関や宿泊施設に強力な仕入れ力をもつ旅行会社がMPの役割を果たしているケースが多く、旅行会社は社外MPとして位置づけられる。
MPの役割は、法人あるいは組織の目的(ゴール)に沿って、その業績を上げるMICEを実現することだ。単にMICEサプライヤーであるホテルやコンベンション・センター、交通手段などの手配業務ではなく、企業・組織が抱える課題をどのように解決するかというところからMICEを設計し、準備、実施、運営していく必要がある。
そこで重要になるのが「聴く力(ヒアリング能力)」だ。ミーティング・プランナーの仕事はMICE顧客の達成したいゴールを明確にすることからはじまり、その成功のロードマップを描くには「コミュニケーション・スキル」「ネゴシエーション・スキル」「ファシリテーション・スキル」「プレゼンテーション・スキル」「リーダーシップ」など多岐にわたる「ヒューマン・スキル」が求められる。MPがMICEを成功に導くには、その基本となる「聴く」、「質問する」、「話す」力が欠かせない。
世界的なコンサルティング会社であるAberdeen Groupのレポートによると、企業のMICE関連の支出は収入の3%近くを占めるといわれている。MICEに関するROI(対費用効果)は、ますます企業の大きな問題となっている。
ROIの評価を可能とするためには、MICEのゴール(目的)と目標を明確にすることが大切だ。例えばゴールが「参加者に新商品に対する充分な理解をしてもらう」であったなら、目標は「MICE実施後、参加者が(1)商品の特徴を説明できる、(2)商品の競合を説明できる、(3)販売ノルマを理解する」となる。ROIを明確にするためにも、計画の最初にそのMICEの目的と目標を明確にすることが必要である。
さらに、経費を管理して効率の良い計画・運営をしていく「Strategic Meetings Management(SMM)」も重視されてきた。MICEを一定のプロセスの下に一元的に管理することで、例えば大手企業のゼロックスはSMM導入後、30%近いコストをセーブしたとの報告もある。
しかし、SMM=コスト・カットのように受け止めるのは必ずしもよいことではない。MICEの目的は成果を上げることで、コストではなく投資と考えなければならない性格のものが多いからだ。ROIとSMMが補完しあうことで成功するMICEのロードマップが描けるだろう。
現地アクティビティの充実もMICE旅行には重要なポイントだが、フランスではその独自文化を体験するのがお勧めだ。さまざまにテーマを持たせることができ、また他ではあまり体験できないアクティビティの数々は「また来たい」と思わせる訴求力をも持ち合わせる。テーマ別にアクティビティを紹介する。
MICEは経済、社会、文化、歴史など、その時代の情勢・背景が反映されるもので、積極的にトレンドを取り込まないとマンネリ化したり、活力がなくなったりすることが多い。MICEの精度を高めるものとして、現在は3つのキーワードが考えられる。
1つ目は「アップロード」。MICEでいえば、参加者の考えや感情を引き出す機会を創ることだ。MICEの「コミュニケーションの場・機会」を意識し、その基本である「共有」「共感」を考えて演出することは、MICEの精度を高める鍵になる。
2つ目は「人」。2050年には日本の人口が25%減少することが予測される。企業が現在と同じ経済力を維持するため、減少する労働力を補填できるような労働意欲の向上や他民族、多国籍の環境の実現が求められる。
3つ目は「環境」。ベンチマーク・ホスピタリティ・インターナショナルズが発表した「2008 Top Ten Meeting Trends」によると、この1年で顧客からの「環境に対する問いあわせ」が飛躍的に増加したという。環境への配慮を盛り込む「Green Meeting」の考え方は、今後のすべてのMICEでのキーワードとなるだろう。
競争が加速する現在においては、MICEの目的を充分に理解し、参加者が精度の高いコミュニケーションを交わせ、生産性やROIの高いMICEを実現することが、旅行会社がMICEを獲得するために必要なことといえる。
キーワード | ポイント |
---|---|
アップロード | ■ミーティング:インターアクティブなワークショップを増やす ■インセンティブ:モチベーションを高める機会としてのチームビルディングの導入 ■コンベンション:ネットワーキングの機会を導入 ■展示会:展示と併設して興味ある学習の機会を展示者、参加者の双方に提供 |
人 | ■ミーティング:多国籍の環境で企業・組織のベクトルをひとつにする ■インセンティブ:モチベーションを高めて減少した人口分を補う生産性を高める ■コンベンション:各地域における魅力ある産業の創造 ■展示会:精神的なテーマ |
環境 | 会議室に各自がラップ・トップを持ち込み、議題をウェブサイトからダウンロードして紙資料を減少させるように工夫 ※その他、「ブルー&グリーティング財団」が、ウェブサイト上に環境にやさしいミーティングの計画・実施のためのヒントを掲載 http://www.bluegreenmeetings.org/ →「Planners」の「10Easy Tips=10のヒント」へ |
※コラム「MICEとは」①~⑳ 筆者:MPI Japan会長 浅井新介氏
MICEビジネスのプランナーとして30年に渡る経験を持つ。その後、ウェスティン・ホテルズ極東地区営業支配人、ユナイテッド航空代理店担当課長、法人営業部長、日本地区旅客営業部長を歴任し、ディストリビューションの整備にも貢献。スターウッドホテルズ日本の依頼により、再建下の宮崎のシーガイアにセールス・マーケティングの責任者として赴任。海外、国内の数千名規模のMICE獲得と受け入れに成功し、リゾート再生に貢献した。